はじめまして、フリーランスで美容と暮らしの記事を書いている桐谷あかねです。
女性誌の編集部に12年いて、今は高校生の娘と中学生の息子を育てながら、取材と執筆を続けています。
先日、リビングの壁を見て、はっとしました。
娘が中学生のときに描いてくれた私の似顔絵が、窓際の日当たりのいい場所で、うっすら色あせていたのです。
飾ったのは自分なのに、光で絵が傷むことを、まったく考えていませんでした。
子供の絵は、値段のつかない贈り物です。
それなのに、冷蔵庫に貼りっぱなしにしたり、押入れの段ボールに積んだりしているうちに、折れたり、日に焼けたり、湿気でくっついたりしていきます。
この記事では、美術館や公文書館が紙の作品を守るときの考え方を、家庭で真似できる形に直してお伝えします。
残す作品の選び方、額装のしかた、飾る場所の決め方、額に入れない作品のしまい方、撮影して残す方法まで、順に書いていきます。
読み終わるころには、「全部は残せない」という罪悪感も、少し軽くなっているはずです。
目次
子供の絵が、いつか「一番うれしい贈り物」になる
2026年1月、たかの友梨ビューティクリニックを率いる美容家のたかの友梨さんが、公式Instagramにこんな投稿をしていました。
長女の友花さんが、誕生日プレゼントに肖像画を贈ってくれたという報告です。
キャプションには、あまりに美しくて恐縮してしまうほどだったこと、これまでにいただいた贈り物の中で間違いなく一番うれしいこと、泣けてきますという気持ちが、飾らない言葉で綴られていました。
投稿の全文は、たかの友梨さんが子供から誕生日に肖像画を贈られたと紹介した公式Instagramの投稿で読めます。
この投稿を読んで、私は引き出しにしまってある、娘の幼稚園時代の絵を思い出しました。
クレヨンでぐりぐりと描かれた、顔なのか太陽なのかわからない丸い絵です。
幼い子供の絵も、大人になった子が描いてくれる絵も、受け取る親の気持ちは同じだと思います。
絵の上手い下手ではなく、「その年齢のその子が、私のために描いた」という事実が、何にも代えがたいのです。
だからこそ、しまい込んで傷ませたくない。
かといって、すべてを額に入れて飾るわけにもいかない。
ここから先は、その折り合いのつけ方を整理していきます。
まず「飾る」「しまう」「データで残す」に仕分ける
額装や保管の方法を調べる前に、手元の絵をざっくり分けておくと、その後がぐっと楽になります。
すべての作品に同じ手間をかけようとすると、途中で疲れて、結局は段ボールに逆戻りするからです。
私は次のように分けています。
- 毎日目に入る場所に飾る作品(年に数点)
- 箱やファイルにしまって、ときどき見返す作品
- 写真やスキャンで記録して、原本は手放す作品
分けるときの目安は、次の4つです。
- その年齢のときにしか描けなかった絵か
- 見るだけで、そのときの会話や場面を思い出せる絵か
- 大きさや素材の面で、無理なく保管できる絵か
- 子供本人が「これは残したい」と言っている絵か
最後の項目は、意外と見落としがちです。
学年が上がると、本人がこの絵は取っておいてほしい、これはもういいと、はっきり言うようになります。
年度末や誕生日など、時期を決めて親子で選ぶ習慣をつけると、絵が増えすぎる前に整理できます。
紙の絵を傷める4つの要因
飾る作品もしまう作品も、傷む原因は共通しています。
国や自治体の機関が紙資料を守るときの基本を、家庭向けに整理すると、次の表のようになります。
| 要因 | 起きること | 家庭でできる対策 |
|---|---|---|
| 光(とくに直射日光) | 色あせ、紙の黄ばみ | 日の当たらない壁に飾る。飾る期間を区切る |
| 湿気と温度 | カビ、紙の波打ち | 湿度は50〜60%程度を目安に。梅雨は風を通す |
| 酸性の紙や素材 | 茶色く変色し、もろくなる | 段ボールやセロハンテープを直接触れさせない |
| 接触・折れ・ほこり | 角折れ、汚れ、虫食い | クリアファイルに入れ、重ねすぎない |
光は「積み重なる」
紙の保存に関する国際的な原則をまとめたIFLA(国際図書館連盟)の資料では、光の害は元に戻らず、しかも蓄積すると説明されています。
日本語版は日本図書館協会が公開していて、100ルクスの光を5時間当てるのは、500ルクスを1時間当てるのと、50ルクスを10時間当てるのと同じ害だと書かれています。
つまり、短時間の強い光も、長時間の弱い光も、積もれば同じです。
私の家の似顔絵が色あせたのは、毎日少しずつ、窓からの光を浴びていたからでした。
国立公文書館が日本語版を公開しているICA(国際公文書館会議)のアーカイブズ資料の展示に関するガイドラインには、もっと厳しい書き方があります。
資料は、どんなに短時間でも、窓が紫外線防止フィルムで覆われていても、決して直射日光の当たる場所に展示してはならない、というものです。
同じガイドラインでは、インクや染料など光に敏感なものは、当てる光を50ルクス以下に抑えるよう示されています。
画材による差にも触れていて、パステル、水彩絵の具、グワッシュ、フェルトペン画は光にとくに弱い区分、鉛筆(石墨)は比較的安定した区分とされています。
子供の絵は、フェルトペンや絵の具で描かれたものが多いので、光に弱い側だと考えておくのが安全です。
美術館の運用も参考になります。
文化庁の「国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項」では、版画は50ルクス以下で公開日数は年間30日以内とされています。
明るさだけでなく「何日間見せるか」まで決めているので、同じ絵を何年も出しっぱなしにしない、という発想は家庭でも真似できます。
湿気とカビは、数字で覚える
家庭向けにいちばん使いやすかったのが、広島県立文書館の文書取扱いリーフレットです。
文書の保存に適した環境は、温度20℃±2℃、湿度55%±5%。
カビは温度25〜30℃、湿度60%以上の条件で、胞子から育つと書かれています。
国立国会図書館の温湿度管理のページでも、恒常的に湿度が65%を超えるとカビが発生する確率が高まるとして、65%を1つの目安にしています。
あわせて、温湿度を急激に変動させないことを目指しているそうです。
リーフレットには、押入れや天袋は結露しやすいので、こまめに風を通すよう書かれています。
除湿機や調湿ボードを上手に使うことも勧められています。
酸性の紙とテープに注意する
同じリーフレットによると、19世紀半ば以降に量産された洋紙には、インクのにじみ止めに松ヤニと硫酸アルミニウムを使ったものが多く、これが酸性劣化の原因になります。
段ボール箱も酸性紙の場合が多いので、絵が直接触れないよう、中性紙の薄葉紙で包むとよいそうです。
破れた紙をセロハンテープで貼ることも、劣化の原因になると書かれています。
ICAのガイドラインも、セロファンテープは黒く変色して作品を傷めるので避けるべきだとしています。
我が家では破れた絵を透明テープで直していたので、耳が痛い話でした。
額装のポイント:マット、アクリル、サイズ
マットを挟むと、絵が「作品」に見える
額に入れるとき、いちばん見た目が変わるのがマット(マットボード)です。
全国額縁組合連合会は、マットの解説ページで、マットには作品とガラスやアクリルを直接触れさせずに額装できる役割があると説明しています。
基本的に紙製で、pH値が7.0以上の製品が多く、切り口が約45度になっているのは作品に影を作らないためだそうです。
子供の絵は、画用紙のふちがガタガタだったり、鉛筆の跡が残っていたりします。
マットで余白を作ると、そうした「子供らしさ」がそのまま味わいになります。
ガラスかアクリルか
表面のカバーは、ガラスとアクリルのどちらかを選ぶことになります。
額縁専門店の解説によると、紫外線カット率は次のとおりです。
| 素材 | 紫外線カット率の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 通常のアクリル | 約90% | 軽くて割れにくい。静電気を帯びやすい |
| UVカット強化アクリル | 97〜98% | 通常のアクリルより高価 |
| ガラス | 約30% | 重い。割れる |
数字は額縁専門店が示している参考値で、公的機関の基準ではありません。
それでも、窓のある部屋に飾るなら、アクリルを選んだほうが有利なのは間違いなさそうです。
注意したいのが静電気です。
ICAのガイドラインには、アクリル樹脂は静電気を帯びやすいので、パステルやチョークなどを使った作品には使えないと書かれています。
パステルやチョークで描いた絵は、ガラスにするか、マットを厚めにして距離を取るのが無難です。
なお、ICAのガイドラインでは、ガラスを作品に接触させないこと、作品を裏板に付けるときにセロファンテープを使わないことも示されています。
サイズは、額ではなく「絵」を測る
画用紙の「四つ切」は、実は1つの寸法ではありません。
色画用紙専門店のカラーペーパー選定ナビ(タムラ)の一覧では、原紙の規格ごとに、四つ切は次のように違います。
- 四六判:393×545mm
- B判:380×540mm
- A判:311×440mm
- 菊判:316×469mm
全国額縁組合連合会も、額のサイズや呼称には地方やメーカーで多少の差があると案内していて、額を買うときは、作品の用紙サイズをmm単位で採寸して伝えるのが第一歩としています。
一般の方は額の外寸を測りがちですが、大事なのは作品のサイズです。
「四つ切用」という言葉だけで買うと、届いてから入らなかった、という失敗が起きます。
先に絵を定規で測ってから、額の内寸を確認するようにしてください。
飾る場所と期間を決める
額に入れても、飾る場所が悪ければ意味がありません。
私が守っているルールは、次の3つです。
- 窓から離れた壁に飾る(とくに西日の入る壁は避ける)
- エアコンの風が直接当たる場所や、結露しやすい壁を避ける
- 同じ絵を出しっぱなしにせず、季節ごとに入れ替える
我が家では、廊下の壁に額を3つ並べて、3か月ごとに中身を替えています。
入れ替えの日は、その季節の絵を子供と選ぶ小さな行事になりました。
額に入れない作品のしまい方
飾らない作品のほうが、数としてははるかに多いはずです。
広島県立文書館のリーフレットを参考に、家庭でできる保管を整理します。
- 一枚ものの絵は、ポリプロピレンやポリエステル製のクリアファイルに入れる
- ファイルに入れる際の台紙は、中性紙を選ぶ
- 段ボール箱に入れるなら、中性紙の薄葉紙で包んで直接触れさせない
- プラスチックの衣装ケースは通気性がなく湿気がこもるので、調湿に気を配る
- 金属のクリップ、ホッチキス、輪ゴムは使わない
クリアファイルについては、絵に触れずに扱えるという利点があるとリーフレットに書かれています。
ただし、パステルやチョークのような粉状の画材は別です。
ICAのガイドラインは、ポリエステル膜が発生する強い静電気で、パステルなど非常にもろい媒体が剥離するおそれがあると指摘しています。
絵の具が厚く乗った作品は、重ねると貼り付くことがあります。
1枚ずつ薄葉紙を挟むなど、少し手間をかけるだけで安心感が違います。
もう1つ、リーフレットには「虫干し」も勧められています。
年に1〜2回、梅雨や冬、雨の直後を避けて、天気のいい乾燥した日に外気に触れさせます。
直射日光には当てず、陰干しにするのがポイントです。
私は子供の誕生月に箱を開けて、絵を眺めながら空気を入れ替えることにしました。
撮影・スキャンして「原本を休ませる」
原本を守るいちばん確実な方法は、原本に触れる回数を減らすことです。
そのために、撮影やスキャンでデータに残しておく価値があります。
国立国会図書館の「資料デジタル化の手引 2017年版」では、保存用の画像は原資料に対して300〜400dpiとされています。
図書館の保存用の基準なので、家庭でそこまで求める必要はありませんが、目安としては参考になります。
同じ手引には、次のようなことも書かれています。
- 厚みがなく破損の危険が低い資料は、フラットベッドスキャナーで読み取る
- 厚みのある資料は、デジタルカメラで撮影する
- 色を正しく記録するため、カラーチャートを一緒に撮影する
家庭の場合、四つ切の絵はスキャナーに乗りません。
そこで、明るい日中の窓辺ではなく、直射日光の入らない部屋で、絵を床や机に平らに置き、真上からスマートフォンで撮ります。
絵の具の表面がつやつやしている場合は、照明の反射に注意してください。
撮影したデータは、クラウドと外付けのディスクなど、2か所に置いておくと安心です。
まとめ
子供の絵を守るために、覚えておきたいことをまとめます。
- 光は積み重なって絵を傷める。直射日光と窓際は避ける
- カビの目安は湿度60%以上。押入れは結露しやすい
- 酸性の紙とセロハンテープは、直接触れさせない
- 額装はマット付きで、絵の実寸を測ってから額を選ぶ
- 飾る絵は入れ替え、しまう絵はクリアファイルと中性紙で守る
- 撮影して残せば、原本は休ませられる
たかの友梨さんの投稿にあったように、子供が贈ってくれた絵は、何年たっても、親にとって一番うれしい贈り物になり得ます。
その絵を、色あせない、カビさせない、折らない状態で、次の世代まで手渡していきたいものです。
私はこの週末、窓際の似顔絵を外して、UVカットのアクリル付きの額に入れ替えるつもりです。
まずは1枚から、始めてみてください。



