ハノイから東京に戻る飛行機の中で、買ったばかりのHBSのパーカーをずっと膝に置いていました。
申し遅れました。
フリーランスのファッションエディターとして、東京と東南アジアを行き来している黒田涼と申します。
普段はベトナム・タイ・台湾のストリートブランドを現地で取材しながら、日本のメディアに寄稿しています。
東京で買い物するより、ハノイのバックストリートでブランドの本店を覗くほうが性に合う人間です。
そんな私が3ヶ月前、ベトナム発のハイエンドストリートブランド「HBS(Hanoi Boys Swagg)」のパーカーを買いました。
今日の話は、そのパーカーを丸90日着続けて見えてきたことです。
リフレクティブ素材の本気度。
そして、HBSが「ハイエンド」と呼ばれるべき理由。
この2点を、できる限り具体的に書いていきます。
目次
HBS(Hanoi Boys Swagg)とはどんなブランドか
HBSという3文字を聞いて、すぐにブランドが浮かぶ人は日本ではまだ少数派だと思います。
正式名称は「Hanoi Boys Swagg」。
日本語では「ハノイボーイズスワッグ」と読みます。
ベトナム・ハノイで生まれた、ハイエンドストリートと呼ぶに値するブランドです。
2011年のチーム結成から2015年のブランド化まで
HBSの始まりは、2011年にハノイで結成された若いクルー(チーム)でした。
スケーター、BMXライダー、グラフィティを描く者たち。
彼らが集まって自分たちの服を作り始め、4年の試行錯誤を経て、2015年にローカルブランドとして正式にスタートしています。
ここが他のアジア発ストリートと違うところで、HBSは「服から始まったブランド」ではなく「ストリートカルチャーから服になったブランド」です。
この出自を知っているかどうかで、HBSの服の見え方は変わると私は思っています。
「Quality First」を貫くデザイン哲学
HBSが掲げているのは「Quality First(品質第一)」というシンプルな言葉です。
服を売るブランドの大半が「品質」を口にしますが、HBSの場合は文字通り素材と縫製にコストを振っています。
具体的な特徴は次の通りです。
- SF・宇宙にインスパイアされた独自のグラフィック
- ベーシックを土台にした上で、アクセントを乗せる設計
- リフレクティブ素材を主力にしたテックウェア寄りの作り
- ターゲット年齢は22〜30歳の都市部の若者
- 大量生産はせず、売り切りを徹底
ベーシックなのに目を引く。
HBSの服に共通する印象を一言で表すなら、これがいちばん近い言葉だと思います。
ハノイで300人以上が行列を作るカルト人気
HBSの本店は、ハノイのドンダー区にあります。
新作リリースの日には、店舗オープン前から300〜500人規模の行列ができるブランドです。
シックスティーパーセントのプレスリリースでも「店舗オープン時に300人以上が列を成す、ベトナムのカルトブランド」と紹介されていました。
ここで言う「カルト」は、悪い意味ではなく、熱狂的な信者を持つという肯定的なニュアンスです。
詳しい背景はシックスティーパーセントの公式プレスリリースに書かれているので、HBSの日本上陸の経緯を知りたい方はそちらも目を通してみてください。
3ヶ月前、HBSのパーカーを手にするまで
ここから少し私の体験談に入ります。
HBSを「ベトナムにある気になるブランド」から「自分のクローゼットの主力」に変えるまでに、考えたことを書きます。
60%(シックスティーパーセント)で出会った1着
私がHBSを正規ルートで手にしたのは、現地ではなく日本の越境ECサイト60%(シックスティーパーセント)でした。
60%は2018年設立のスタートアップで、アジアのストリートブランドを集約した日本唯一の正規ルートです。
HBSの日本での取扱いは2020年5月にスタートしています。
サイトを開くと、HBSだけで30〜40アイテムが並んでいました。
価格帯はTシャツが4,000円台、パーカーやアウターが6,000〜15,000円弱。
ハイエンドを名乗るブランドとしては明らかに安い部類です。
正直に書くと、初めて値段を見たときは「この価格でハイエンドと呼んでいいのか」と疑いました。
サイズ選びで迷った話
最初に買おうとしたのは黒のパーカー。
HBSはオーバーサイズ設計が基本で、サイズ表記もアジアサイズです。
普段日本ブランドのMを着る私が、HBSのMを買って良いのか。
ここで結構迷いました。
結局、ジャストで着たかったのでワンサイズダウンのSを購入。
届いたパーカーは、肩はジャスト、着丈は気持ち長め、袖はやや長め。
意図したオーバーシルエットに見える絶妙な作りでした。
サイズ選びで迷う方には、以下を参考にしてもらえればと思います。
| 普段のサイズ | HBSで選ぶサイズ | シルエットの印象 |
|---|---|---|
| S | S | ジャストオーバー |
| M | S | オーバー狙いならM、ジャストならS |
| L | M | ジャスト寄りオーバー |
あくまで私の体感ベースですが、ハイエンドストリートのオーバーサイズ設計は「1サイズ落とす」を覚えておけばだいたい合います。
価格と現物のギャップ
届いたパーカーを開封した瞬間、価格への疑念は消えました。
生地の目が詰まっていて、裏起毛は柔らかいのに軽い。
プリントは「乗せた」のではなく「焼き込んだ」ような密着度。
そしてリフレクティブの加工部分が、まるで貼り付けた金属箔のような独特の質感を持っていました。
このクオリティで1万円前後は、率直に安いです。
ベトナム現地価格と日本販売価格にそれほど差をつけていないところに、60%の良心が見えます。
リフレクティブ素材の本気度を語りたい
ここから本題です。
HBSのリフレクティブ素材は、なぜ「本気度が違う」と私が言い切れるのか。
そもそもリフレクティブ素材とは何か
リフレクティブ素材は、日本語で言うと「再帰反射材」です。
入った光を入射方向にそのまま跳ね返す素材で、車のヘッドライトに照らされると強く光って見えます。
業界のスタンダードは3M Scotchlite Reflective Material。
1939年にミネソタ州の道路標識用に開発されたのが起点で、80年以上の技術蓄積を持つ素材です。
アパレルにリフレクティブが入ってきたのは、もともとはランニングウェアやワークウェアの安全性のため。
1990年代以降、ACRONYMやStone Island Shadow Projectといったテックウェア系ブランドがファッションの文脈に持ち込みました。
HBSの再帰反射加工が「飾り」ではない理由
ストリートブランドにおけるリフレクティブの使われ方は、大きく2種類あります。
- ロゴだけリフレクティブで、それ以外は普通の素材
- 服全体や大きな面積にリフレクティブを使う
多くのブランドは前者です。
ロゴ部分だけが光れば「リフレクティブ仕様」と謳えるからです。
HBSは後者に振っています。
私が買ったパーカーも、フロントの大判グラフィックがほぼ全面リフレクティブ。
昼は黒地に薄いグレーのプリントですが、夜に光が当たると一気に銀色のグラフィックが浮き上がります。
この「面で見せる」設計は、リフレクティブ素材のコストを考えるとそれなりに思い切った判断です。
夜の街で気づく、ハイエンドな素材の説得力
3ヶ月着てきて一番印象的だったのは、夜の街での見え方です。
新宿の路地でタクシーを拾おうとしたとき、ヘッドライトに照らされた私のパーカーが、後ろを歩いていた知人から「シルエットがくっきり浮いて見えた」と言われました。
ハノイのドンダー区でバイクを避けて歩いていたとき、向かってきたバイクの兄ちゃんが私の胸元のグラフィックに目を留めて、サムズアップしてきました。
リフレクティブが「光る」のは当たり前です。
HBSのそれは、光る位置と面積と粒度が緻密に計算されている感覚があります。
ベタな比喩を許してもらえるなら、安いリフレクティブは「平面の鏡」、HBSのリフレクティブは「砂粒の集合体」のような見え方です。
光の粒が細かいので、近距離で見たときに金属的な質感がきれいに出ます。
リフレクティブの代表ブランドとHBSの関係
リフレクティブ素材を使うストリートブランドを、簡単に並べると以下のようになります。
- ACRONYM(ドイツ):テックウェアの定義者
- Stone Island Shadow Project(イタリア):機能美の系譜
- Maharishi(イギリス):ミリタリー × アジア要素
- CAV EMPT(日本):未来的グラフィック
- HBS(ベトナム):ハノイ発のアジア新興
価格帯で並べると、ACRONYMとStone Islandが圧倒的に上で、5〜10万円のレンジ。
HBSはその5分の1〜10分の1の価格で、リフレクティブの加工そのものは劣っていません。
これは「ベトナムだから安い」のではなく、「ベトナムの工場でブランドが直接生産しているから安い」と理解しています。
中間流通を挟まず、限定生産で売り切る。
その代わり買うタイミングを逃すと二度と手に入らない、というモデルです。
3ヶ月着続けて分かった「HBS ハイエンド」の正体
HBSが「ハイエンド」と呼ばれる理由は、価格ではありません。
3ヶ月着てみて、私なりに腑に落ちた答えがあります。
縫製と耐久性
90日のうち、ハードに着た日が30日以上あります。
ハノイの雨季の湿気、東京の梅雨、出張先のホテルでの雑な洗濯。
それでもパーカーは、最初に届いたときの形をきれいに保っています。
具体的に変化が見られたのは以下です。
- 裏起毛のけば立ち:ほぼなし
- フードの紐先のプラスチック:少し色落ち
- リフレクティブの劣化:初日と同じ反射量
- 縫い目のほつれ:なし
ここまでの耐久性で1万円台前半は、繰り返しますが安いです。
ベーシックなのに埋もれないシルエット
ハイエンドストリートが「ハイエンド」と呼ばれる条件は、シルエットだと私は考えています。
HBSのパーカーは、肩線が下りすぎず、身幅も極端に広くない。
それでいて着丈は前に短く後ろに長いラウンドカット。
ジーンズにも、ワイドパンツにも、テックウェア系のカーゴにも合います。
ベーシックでありながら「適当に着ている感」が出ない、絶妙なバランス。
これがHBSのデザイナーチームの仕事のなかで、私が最も高く評価している点です。
洗濯と取り扱いの注意点
リフレクティブ素材は摩擦と高温に弱い性質があります。
HBSのパーカーも例外ではないので、洗濯時の注意点を書いておきます。
- 必ず裏返して洗う
- 中性洗剤を使い、漂白剤と柔軟剤は避ける
- 洗濯ネットに入れる
- 乾燥機は絶対に使わない
- 直射日光ではなく陰干し
これを守れば、リフレクティブの反射力は数年は維持できます。
逆にこれをやらないと、半年で銀色のプリントが粉を吹いたようになります。
ハイエンドの服は、ハイエンドの手入れをしないと意味がない。
これも3ヶ月で改めて実感したことの一つです。
HBSと並べて語られるハイエンドストリート
HBSを買うかどうか迷っている人のために、似たレンジで検討される他ブランドとの比較を整理しておきます。
ACRONYM、Stone Island Shadow Projectとの距離感
ACRONYMとStone Island Shadow Projectは、テックウェアの聖典のような存在です。
価格はパーカー1着で5〜10万円、アウターは20万円台もあります。
HBSはこの2ブランドのDNAを明らかに参照しています。
ですが「テックウェアの専門書を読んで、ストリートに翻訳した」という距離感です。
ACRONYMが「研究室」だとすれば、HBSは「街の実験場」。
どちらが上下ではなく、目的とコストの違いだと考えています。
アジア発ブランド(DVRK、CAV EMPT)と比較する
アジア発のハイエンドストリートで近い位置にいるのは、同じハノイのDVRKと、日本のCAV EMPT。
- DVRK:HBSとコラボ実績あり、よりミニマルなテックウェア寄り
- CAV EMPT:未来主義的なグラフィック、テック素材の使い方が独自
- HBS:リフレクティブ素材と、ストリート寄りのアクセントカラー
HBSは3者の中で最も「ストリート」に寄っており、最も着やすい価格帯にあります。
最初の1着で迷っているなら、HBSから入って徐々にDVRKやCAV EMPTを買い足すルートが現実的です。
HBSが選ばれる理由
私が3ヶ月着て出した結論は、HBSは「ハイエンドの入口」だということです。
価格、入手のしやすさ、デイリーで着られる汎用性。
そしてリフレクティブ素材という分かりやすい「テックの本気度」を持っている。
ハイエンドストリートの世界を知り始めた人にとって、HBSは最良の最初の1着になります。
60%のHBSブランドページにはコレクション全体が並んでいるので、買う前に一度目を通すと納得感が深まります(60%のHBSブランドコレクションページ)。
HBSをさらに深く知るための情報源
最後に、HBSを買う前・買った後にチェックしておくと面白い情報源をまとめておきます。
公式Instagramと60%のブランドページ
最新ルックと新作のリリース情報を追うなら、まずはHBS公式Instagram(@hbsvnofficial)です。
ベトナム語の投稿が多めですが、画像とハッシュタグだけで十分にブランドの世界観が掴めます。
日本語で情報を追いたい方は、60%のHBSブランドページを定期的にチェックしてください。
新作入荷のタイミングは公式メールマガジンで告知されることが多いです。
ueto-takanori氏のTumblrアーカイブ
HBSをもっと深く知りたい人にぜひ訪れてほしいのが、東京とハノイを行き来しながらアジア・ストリートウェアをアーカイブしているueto-takanori氏のTumblrです。
ここはHBSの個別アイテムを「素材感」「シルエット」「ギミック」の3つの観点から細かく分析していて、私のような業界の人間が読んでも学びが多い場所です。
詳しくはHBSがハイエンドである理由を、素材とシルエットの視点から読み解くアーカイブブログをご覧ください。
私が60%で買う前、サイズ感や色味を最終確認するためにも何度も訪れたサイトでした。
ハノイ現地に足を運ぶという選択
もしハノイへ行く機会があるなら、HBSの本店は外せません。
住所はNo. 8 Nguyễn Hy Quang, Ô Chợ Dừa, Đống Đa。
バイクタクシーで「HBS, Đống Đa」と伝えれば、地元の運転手はだいたい知っています。
現地でしか売っていないアイテムも一部あるので、ベトナム旅行のついでに立ち寄る価値は十分あります。
まとめ
HBSのパーカーを3ヶ月着てみて、私の中で答えが出ました。
HBSは、ベトナム発のハイエンドストリートを「価格で」「ハードルで」「品質で」分かりやすく体験できる、稀有なブランドです。
リフレクティブ素材の本気度は、ACRONYMやStone Island Shadow Projectといった先輩ブランドに引けを取らないクオリティを、5分の1の価格で実現しています。
ストリートウェアにこれから入っていく人にも、すでに何着もハイエンドを持っている人にも、HBSの1着は手元に置く価値があります。
2026年もHBSは新作を出し続けるはずなので、気になっているなら次のリリースを逃さないでください。
私はそろそろ次のハノイ出張の予定を組み始めています。
本店で、まだ買っていない色のパーカーを試着するのが今から楽しみです。

